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「核シェルターは意味ない説」を徹底検証してみた。


核シェルターは意味ないのか検証

最近家庭用の核シェルターの売り上げが増加傾向にある。北朝鮮の核攻撃や原発問題などを受けて防災意識が高まっているのが背景にある。そんな家庭用のシェルターだが、「意味がない」「役に立たない」といった意見が存在する。決して安くはない核シェルター。投資するからには、人命を守るものでないとならない。今回はそんな「核シェルターは意味ない説」を徹底検証し、その真偽を解明していく。



「核シェルターは意味ない説」を紐解く


そもそもなぜ核攻撃のために製造されている核シェルターが意味のないものだと言われるようになったのか。単刀直入に言うと、「核シェルターに避難する前に爆風でやられてしまう」という理由がある。核爆弾が爆発するとその周辺はあっという間に爆風で吹き飛ばされてしまう。いくら数千万円の豪華なシェルターを建設しても、爆風が到達する前に避難することが極めて難しいというのがこの説の論理的な背景だ。


もしかすると自宅にいる場合は、即座の対応が取れるかもしれない。しかし避難に時間を要する高齢者や子供はどうだろうか?また私たちは常に家で生活をするわけではない。外出したり、会社に行ったりと多くの時間を外で過ごす。だからこそ爆風に晒される前に核シェルターに到着するのが極めて困難なことからこの説は生まれたのだ。



そもそも「核攻撃」とは何だろうか?


核攻撃とは?

一般的なイメージ


核攻撃と聞くと何を想像するだろうか?おそらく多くの人は、映画のシーンを回想するのではないだろうか?爆音と強烈な光と共に爆風が広がり、周りの全てのものをなぎ倒していく。これが映画で描かれる核攻撃や核爆弾の典型的なイメージだ。そのため核攻撃と聞くと「爆風・熱線」が最大の脅威だと感じる方も多いのではないだろうか?



実際の被害を計測する


まずはこの図を見てほしい。これは広島・長崎型核兵器の被害範囲を表した図になる。


広島長崎型原爆の被害

・3km圏内は生存困難


広島・長崎型核兵器の場合、爆発からわずか数秒で爆心地周辺の温度は3000度に到達した。鉄が溶ける温度が1500度程度と言われているため、人間にとってはひとたまりもない。もし北朝鮮が核ミサイルを発射した場合、着弾までは10分前後だと言われている。Jアラートが正常に機能し、10分前に気付くことができれば核シェルターまでの避難は可能かもしれない。しかし例えば外出中の場合、10分で自宅の核シェルターまで非難するのは難しい。そのため「核シェルターは意味ない説」は、爆心地から3km程度以内においては有力な説だと言える。


・3km圏外はどうか?


しかし3km圏外を超えると状況は変わる。3-5km程度の場合、素肌への火傷のリスクはあるが、爆風や熱線による直接的な被害は大幅に軽減する。つまり核シェルターの中にいなくとも生き残れる確率は大幅に上昇するのだ。



やはり核シェルターは意味がないのか?


爆心地から3km圏内だと核シェルターへの避難に間に合わない。3km圏外だと爆風・熱線による死亡リスクが大幅軽減するため、シェルターに入らなくても生き残れる。ここまで聞くと核シェルターが不要ではないかと、この説に共感が湧いてくるかもしれない。しかし忘れてはいけない点がある。それは・・


「放射線物質」こそが核攻撃最大の脅威。


核シェルター、放射線物質

平和学習の一環で広島・長崎型原爆について学んだ記憶があるだろうか?熱線や爆風で町が跡形もなく消えてしまった。そんな小学校からの記憶を持っている方もいるのではないだろうか?しかし核攻撃において忘れてはいけないのは、放射線物質こそが最大の脅威であるという点だ。広島原爆の当日の死者は5万人程度と言われており、大半が熱線と爆風による死者となる。確かにこの被害単体でも大変な損失であるが、実は同年末(原爆から4カ月ほど)でその倍の10万人ほどが亡くなっている。これは放射線物質に晒されたことが原因である。


放射線物質は、「3000km」まで影響を与える。


爆風と熱線が3km程度において多大な被害を与えるのに対し、ばらまかれた放射線物質は風に乗って100km-3000kmもの広範囲に被害を与える。「死の灰」とも呼ばれるこの放射線物質は、目に見えずとも私たちの生活用水や空気に交じり長期的に私たちの体に蓄積されていく。3000kmというと札幌から石垣島程度の距離になる。



放射線物質からどうやって身を守るか?


海外移住?


最も有効な方法は3000km圏外の海外諸国へ移住してしまうことだろう。しかし有事における移動は制限され、都市機能の停止も想定できる。また突然家族全員で海外の知らない国へ移住するのは現実的ではないだろう。さらに核攻撃から最初の2週間はガンマ線(放射線の一種)が強く、外出はもちろん外気を吸うだけでも健康上深刻なリスクがある。



2週間外気を吸わない


実は時間と距離により放射線物質(ガンマ線)の強さは減衰していく。2週間でその強さはおよそ1000分の1となる。さらにガンマ線の強さは距離の自乗に逆比例して減る。つまり距離が2倍になればガンマ線の強さは1/4になる。広島・長崎型原発では生活の中心である都市が標的にされたが、一般的に国家間で核攻撃を行う際は軍事基地や軍事施設が重要なターゲットとなる。そのため余程爆心地に近くない限りは、2週間外気を吸わないだけでも後遺症のリスクが大幅に下がるのだ。ただ2週間室内にいようとも家の隙間から外気は入ってくるし、2週間も同じ部屋の空気を吸うのは現実的に不可能だ。



では家庭用の核シェルターの本当の目的は何か?


もちろん核攻撃が着弾する前までに核シェルターに避難することができれば、生存の確率は大幅にあがるだろう。しかしそれは爆心地から3km圏内のケースであり、ほとんどの場合核攻撃は軍事基地や原発施設に対して行われる。つまり一般居住区に住んでいれば、その地域が爆心地となる可能性は極めて少ない。



必要なのは「爆発」ではなく「汚染」から身を守ること。


前述の通り、有事の際は放射線物質の被害が3000kmにも及ぶ。その汚染から身を守ることが最も重要な生存方法となる。



需要と共に進化する核シェルター


従来の核シェルターと言えば、山中に隠された大規模施設や大富豪の豪邸の地下だけに存在するような一種の特権のようなイメージがあったかもしれない。しかし昨今では家庭用の核シェルターも1500万円程度で購入できるようになり、一般人にも選択肢が増えてきた。


そして最近話題を集めているのが「エアコン型シェルター」である。核攻撃の爆風や熱線ではなく、放射線物質による空気の汚染に特化したタイプだ。軍事国家であるイスラエルで開発されたこのシェルターは放射線物質を99.995%除去する強力なフィルターを搭載している。更に室内の気圧を一定に保ち、外気を入れない仕組みとなっており、エアコンのように部屋に設置するだけで、自宅の一室を核シェルターにすることができる。一戸建てでもマンションでも気軽に設置できるため、放射線汚染から身を守る手段として人気を集めている。


エアコン型核シェルター

(エアコン型シェルター、画面右上)



結論:「核シェルターは意味ない説」は一部有力。


今回の説は、爆心地に近いか遠いかで大きく内容が異なる結果となった。仮に数千キロ、1万キロ離れた国家が日本に核攻撃を仕掛けた場合、着弾までに数十分を要するため避難に間に合うかもしれない。しかし北朝鮮の核攻撃が懸念される今日では、その距離の近さから10分で避難するのは難しいという認識もあり、核シェルターに避難する前に着弾してしまうという視点から今回の説が生まれたと想定される。


ただしほとんどの場合は、核攻撃の爆心地に居住区が対象になることは稀だ。確率論で言うと有事の際に深刻な脅威となるのは放射線物質である。その汚染対策を前提とした核シェルターであれば、我々の生存に大きく貢献することだろう。







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